4 幽霊を見に行く
案内え
.
 「新川の堤防で幽霊が出るらしい」。
どこから湧いたか 噂は蔓延して通勤電車内でも話題になっているという。
夕飯後の 半端若衆の溜まり場でも、噂を持ち込む者がいたが 「冗談か」 と受け流し
ていたが、 ひまと興味に押されて、9時過ぎには和夫の自家用ダンプカーに5人で乗っ
て現場に向かっていた。
現場では、車のライトの範囲が人だった。
懐中電灯で足元をさぐり、かなり行って隙間をみつけた。 車座に腰を落ち着けて、暇な
先客の話相手をして、時々あたりを伺った。 遠くで懐中電灯の光の条が動いたが他に
は闇だけだ。
飽きるほどの時間が過ぎたが、「出たっ」 とは聞こえず、 「12時だ」 と声がした。
「噂に化かされた」 とトラックに戻り、憂さをまじえて、大声で「しゅっぱーつ」とおどけた。 
途端に助手席のドアにノックがあって女の声がした。 ドアを開けると、
白地に花柄の浴衣の女がいて、
 「どこまで帰らはんの」 と尋ねる。 
答えると、自分の家の方角なので連れていって という。
助手席をゆずると、運転手の和夫が室内灯を点け 高調子の声で、「ユキやないか」という、
彼女も
 「兄ちゃん等やったの うれしいな」 と奇遇を6人とも喜びあった。
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彼女は、小中学生の頃は、缶けりや三角ベース野球の仲間で男に混じって走り回ったが、
成人して嫁いでからは、噂もなく仲間から、忘れられていた。
 「今時分に一人で何してんのや」 と叱るように尋ねると、
 「連れがいたんやけど、暗がりでの大勢の混みあいで はぐれて、困っていた」
 「大人の迷子や」といって 昔のようにハハハと笑い 「ごめん」と言って、身軽に座席に着
いた。
車は動き出したが帰りの人が込んで なかなか進めなかった。
荷台に寝転がった男4人は、うたた寝でもしたか、車が停まったことに気づいて、彼女が降りる
るかと、助手席のドアの方に身構えたが、右側のドアが開き 和夫が荷台に向かって、
 「ユキがいなくなった」 と怯えた。
 「しばらく走って話しかけがないので隣を見ると 姿がなかった」 と続けた。
4人が荷台から飛び降りて、助手席側のドアを開けてみた。
 「ギョッ」とした ひらめき があったが無理に否定して 目玉だけを動かせた。
一人が不意に 「エーッ」 と声を立てると、ひらめきが現実になり、
冷たいものを 「ザーッ」 と浴びせかけられた。
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トラックが走り出した。 座席の真ん中を広く空けてもう一人の席にした。
頭の中で音を立てるほど めぐるものがある。 それは 不憫 腹立ち やるせなさと表現
の出来ない 焦燥感か だ。
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それからも、溜まり場で駄弁ることには変わりはないが、互いに ユキは話題にしなかった。
暗がりの中で、 じーっと 耳をそばだてているものを感じて、時には缶けりや三角ベースの
. 話題で笑いあうように心がけた。 
何十年も過ぎたが あの仲間達は、今でもやるせなさを忘れていないだろう。