自転車に乗れた 案内え
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 小学校4年生であった。 クラス内で楽しそうな自転車遊びの話を聞くにつれて自分も
自転車が欲しくなった
我が家で わたし用の自転車をせがむとゲンコツを喰らうのが明らかなので、一計を立て
て学校帰りに父の勤務する会社に立ち寄り 父の通勤自転車を利用して、会社の門の際
の空き地で練習することにした。
守衛さんが付いてくれて 「ペダル乗りから始めよう」 と言われてから何百回転倒したか?  
今日はその成果をアッピールすべく、この大通りに自転車デビューした。
まず仲間達の集まり場所の方角にハンドルを向けて、興味と羨望の眼差しを意識して勇躍
して出発した。
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丁稚(でっち)乗り 立ち乗り       牛の荷車
水平フレームの下から片足が向こうのペダルを踏みに行く 水平フレームからでもペダルに届かないので尻を左右にずらしてペタルを踏む
身長120センチのチビッコだ。サドルからは足が届かずペダルを漕げないが、見栄えを考え
て、大人のようにサドルに座って乗りたいのだ。
立ち乗りで速度をつけて足で フレームを伝ってサドルに座ると、足は仕方なしに宙ぶらり
んである。車上からは景観が大いに広がり、晴天と相まって おのずから気分爽快になる。
耳にこすれる風の音を聞きながら、 やや下り坂を疾走するうちに、 前方から牛に曳かせ
た荷車が来た。 道路の余幅は左右共十分にあるが、左側には牛方さんがいる、右側とき
めて距離を詰める。 
牛から5メートルと近ずいた時に前輪が 何かをはじきハンドルが揺れた。 路面には、道
路補修の砕石が撒かれている、 前輪が更に砕石の深みに入りハンドルの収拾がつかな
い、 牛との距離はない。 衝突は必至だ。 体が硬直した。
牛の顔面を凝視しながら 「あたるーッ」 と叫びながら転倒した。
気が付くと 倒れた自転車の上に平泳ぎの状態で道路から 2メートル余下の麦畑に落ち
ていた。 瞬間に路上の牛を見た。
牛は何事もなかったように、普段のとぼけたような顔をしていた。
牛に当ったと思い込んでいるので、 目があったとたんに「牛さんごめん」と言っていた。
現実には牛に当たったのか、 当たる前に悪路が原因で倒れたのか、 
倒れてからこの下までどんな形で落ちたのか、全然記憶がない。
麦畑はと見たが荒らしてない。 自転車も見たところでは壊れていない。
恐る恐る 自分の体をあちこち触ってみたが、異常はなかった。不思議だと思う。
法面一面の雑草が幸いしたかとも思う。
自転車を道路に戻さねばと思い 見上げてみた 路面かせら約30度傾斜の法面の高さ
2メートル余は 身長120センチのちびっこには 険しく 高く見えた。
一瞬、「大人の人にお願いしょうか」 と弱気がかすめたとき、路上から 牛方さんが覗き
こんで、鼻綱の手元のほうを投げ落として何か言ってくれたが分からない。
「ごめんッ」 と大声で謝り、 「自分で上げます」。 と罪の意識が言わせていた。
牛方さんは 小言もなしに通り過ぎてくれた。 心の中でもう一度「牛さんごめん」 と
謝ると牛の顔がチラッと浮んだが、衝突時の牛のようすはまだ何も思い出せない。
後へは引けない気がして、自転車を法面の草の上に 前輪を上にして寝かせて持ち上
げてみたが 斜面30度の自転車は重い。 「セーノッ」 と雑草の株元を足掛かりに小刻
みにずり上げていると、父の顔がチラついて、出発時の勇み心はどこへやら、冷や汗が
目を沁みさせていた。
路上に上がりもう一度自転車に異状がないのを確かめるながら 斜面をのぞいた。
不可能かと思い乍らも自転車を路上まで 揚げ切れた感慨が風のように通り過ぎた。 
何よりも、惨めな姿を 「仲間の誰にも見られなかった」 事の幸運がうれしくて、 
. 角ばった気分を和ませた。 
.
少し早いが父の退勤を待つために会社の門前まで来たが 恥ずかしいので守衛さん
には近づかなかった。
程なく父は出てきて 黙ってサドルに乗ったので、私は後ろの荷台に乗った。
自転車を出発させたがすぐにブレーキで止めて 降りてスタンドを立てた。 叱られ
るか、げんこつを喰らはされるか、すくんだが、「ハンドルが狂ってる」と言って、修正して
から、 又黙って乗って走り出した。
転落した場所に差しかかっても父には言わなかったが、見透かされているようで心配し
たが、何事もなく走り過ぎた。
すべて無事に終わったとも思はないが 家に着くころには 父の背中にもたれて居眠り
をしていた。
. 今日も母は険しい顔だった
.
思えばとんだ デモンストレーションだった。    
.
追、翌日には 自転車で村中の細い路地を走りまわった
2010.07