値切る 案内え
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大阪人は物を安く買ったことを自慢にするが、 東京人は高いもののように吹聴すしたがるらしい。
見栄なんだ。
大阪駅から現環状線(当時は城東線)を東にひと駅 天満駅から少し歩いて通称 「てんろく」 本称 
天神橋筋6丁目、 昭和30年代、衣類店の並ぶ商店街だった。 
町筋の通りに面した洋服店は、どの店も似たような商品が並べられ、 高い値札を付けていた。
これは 「掛け値」 といって、 大阪人特有の値切り分を上乗せしていたのと、 高級品に勘違いさせるの
が目的だ。
地方からの客で、その値札で買うという人もあるらしいが、店の方もまるっきり値札通りで売ることはせ
ず、遠路をねぎらい、感謝の意 と言葉をあやつって値引きする との噂は聞いた。
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買い物は、お金が出るので嬉しくはないが、私はこの商店街が好きだった。
理由は、値切る交渉が楽しく、ゲーム感覚で対話できるからだ。とにかく、大阪人は値切って金額を下げ
させないと、買い物ができない性格を、「オギャー」の時から持っている。
同じような品物を仲間より安く仕入れたときは、優越を感じたものだ。
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大阪の仲間は買った物を披露すると、きまって「なんぼやった」 と尋ねる。 自分で安く買えたと思う 
ときは胸を張って値段をこたえられる。
仲間は各自勝手な感覚で、「ええかいもんや」 とか 「まあまあや」とか 「買い過ぎや」とか評価する。 
 「ええかいもんや」 とか、「まあまあや」と言われると嬉しくさせるが 「買い過ぎ」(高く)と
言うやつは 誰にもそう言う嫌われもんだ。 俺ならもっと安く買ってやる といきまくが 自分の買
い物は見せたがらない。.
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洋服屋の店内でハンガーに掛けて展示している商品を 首吊りと言った。 くびつり
それも買わずに見て歩くだけの客を ヒヤカシ と言い、店側はヒヤカシも
客のうち としていて、お茶をくれる店もある いわばサクラに使っている気
.分だう
気に入ったものがあると店員を呼んで 価格の書き込んだ値札を示して、
 「なんぼや」 と聞く。
店員は勿論 値札に記入通りの金額を答える。
 「あほかッ 売り値を聞いてんのや」
 「これがうちの売値です」 また同じ返事で答える。
負けじと
 「えらい堅いな、商売の話にしょうや、あんた売る気はあんのか」
店員はとぼけて
 「うちは商売もんが 売るほどおます」 
と言って 客か ヒヤカシかの見極めの 間にする。 ベテランは客のふところ具合まで見えると言う。
商品の売値は 値札の裏に数字をかな文字に変えて書き込んである (コノヒトニハマケルナ) とか    
 (このみせはよくうれる)とか 他に不用なもじも混ぜてある  
 「そんなら、応対せんかい」。 
その品物に執着してる風だと 足元を見られると思って平静を装うが 向こうが2〜3枚上だ
 「うちは掛け値はしてまへん」。 と 逃がさない程度に突っぱねようとする。 
 「これは掛け値ですと、言うあほな店はない」。
 「掛け値の店やと言われたら お客さん寄り付いてくれまへん、それに年明けから商店街の方針で 掛
け値したらあかんことになったんです」。
 「あほ言うな、この商店街では 掛け値が当たり前や いまさら変えれんやろ 店の表へ行って見て
  来いや 昨年同様よろしく。と書いて張ったある」。 
 「あれはお客さんに足を運んでくれはるように書いたもんです」。
店から商売の話は切り出さない。
 「番頭はんは売る方やし こちらは買うほうや もうちょっと賢うなれや」。
 「うちも買うてもろてなんぼやし、折角声かけてくれたんやから 商売にしま
 ひょ、 とやかくなしで一発回答やよろしいでっかこれにしまっさ」。
と10パー引きぐらいの額をメモで見せて、
 「これでうちは一杯一杯や、これ以上言われたら商売になりまへん」。 と言う。      
そんな数字に目もくれず
 「いつものセリフやけど、 数字出してくれたんで こちらも数字出したる」。 .
物によって違うが 正札の 5割から7割ぐらいの値段を示す 成立するとは思わないが 店も待って
いるので掛け合いのスタートラインとする。       . 
相手もさるもの 演技をする 赤い顔に青筋たてて気色高をつくり すこしぞんざいな口調で威圧する。
 「うちもなあ 長年商店街でこの商売やらしてもろてんのや、あんさんの言うような商いやったらこの
商店街から追い出されるわ」。 
帰れとは言わん 最初の一小節や
 「番頭はん えらい上手やけど その顔で商売できると思ってるのか」。
近くの椅子を引き寄せて座り込み 一見でないこと 他の客も紹介していること 遠くからこのみせを
選んだ理由を砂糖をつけてしやべり、
 「物を買はん時でも おもて通ったら店を覗いてみて、番頭はんが見えたら 今日も頑張ってはるなと
思うて……親しみちゅうのやな」。
調子のよいことをしゃべる。 相手もそれが分かってるが合はしにくる。
 「贔屓にしてもろて嬉しけど こんなことやと話になりなりまへんので、ハンカチ一枚も売りまへん」。
もう一度怒ってみせる。
 「俺は このスーツを買うとゆうのや 釣り合わん話はせんこっちゃ」
店員も売りたいので、 顔がゆるむ。
 「ハンカチ買うのと、ちゃうので心配せんでええ、ほんまはなんぼやっ
  たら売るんや、 ソロバン出しや」。
このソロバンは箱になっていて 客側から玉が見えない。
どうゆう計算か分からんがパチパチ音を出して 「これで」と見せる。
こちらも そのソロバンを取り上げ玉をはじいて、 「これや と言う」。
ソロバンが行ったり来たりして、屁理屈を捏ね合い 「これこれ」 「 あかんあかん」と言いなが最後に
 は双方共 「 負けた」。 と言う。 
店員は 商いが出来たと腹で笑う。こちらは もっと安く買うつもりだった、と ほぞをかみ、
 「どこがあかんかったか」  とを店員に聞く。 こんな話もこの商店街だけだろう。
 「無茶な数字出しはったらこっちもムキになりまっせ」。
スタートから悪かったという。あまり参考にはならん。
 「そやけど ええ買い物でした、大事にしてやってください」。 と言いながらスーツの箱を出してきた。
商売人に勝てる素人はいない。
 「ネーム入れてや」。
 「そうでんな、ほなサービスにします」。 
当然のことを省こうとする。
 「2-3軒先へ出しますんで 混んでたら3-40分かかります。店の中をぶらぶら見ててください」。
 「用のないもんまで見てれんな、と言うてパチンコ1時間もやるとえらい負けるしなぁ」。
 「それやったら、向こうに映画館がありまんので 時間つぶさはったら」。
そうするかと思っている と、これでと映画代を出してくれる。
最後に時間をかけて値切れなかった金額より多かった。 商売のかけ引きでは素人に負けられんけど 
接待費なら出します、ご遠慮なく と言われた気がした。 根性むきだしだしや。
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乞食が施しを受けるようで気分が悪いが、思い切って貰って映画館に行くことにした。 これも負けや。
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