宝くじの怪
休閑地の
 案内
. ..     
有田さんを近所の人たちは 「ゆうさん」と呼んで子供のころからの
呼び名だそうだ
ゆうさんの散歩コースに喫茶店があり 今日も店のオヤジ(オーナー
の柄ではない)と顔が合って挨拶をしたので 寄って行くことにした
ドアのガラスを通して店内を見るといつものように空いていたので 
「ごめん」 と言って入った  
カウンターと 小型のテーブルが4脚の小さい店だ
外からは見えなかったが かぎ型のフロアの奥のテーブルに白ひげ
の爺さんが居て コーヒーカップを じーっと見つめていた 
ゆうさんが入って行っても無視で表情も変えない コーヒーを持って来たおやじも 無視して
いるようだ ここの家族かと決めてその人を見ないようにした
世間話から サマージャンボ宝くじの話題で このおやじが夏に3.000円当てたと自慢気の喋った
ゆうさんも宝くじはサマーと年末のジャンボの2回だけ 10枚づつ買っていたが 300円のもどし
金以上の賞金には恵まれることはなかった
店を出て 10分ぐらい先のスーパーに宝くじの売り場がある 
冗談好きのゆうさん 「当たる番号を10枚バラで」 に おばさんが
「当たりくじがお好きですか ご幸運を」 と負けずに言い返して袋入り
のセットを渡してくれた
家の仏壇の引き出しにしまって チーン とリンを一つ叩いてご先祖様
に当選を計らうようにお願いした 自分では当たる気遣いはないので 
ご先祖様に幸運を導いていただくことにしたのだ
正月も過ぎ 鏡開きになって宝くじに気が付いてバソコンの当選番号を見てびっくり 5等 1万円 の
当たりだ 何度も見直して確認した 間違いはない
車を飛ばしてスーパーの売り場で 「おめでとう」 と1万円札と換金して 「ありがとう」 と
礼を言って 1万円札を紙入れにしまって 内ポケットに入れた 
喫茶店のおやじや馴染みの客に吹聴してやろうと意気込んで店に入った  おやじの姿が見えないので
大声で呼んでみると返事があった 店内は客がなかったが 奥のテーブルに今日は白髪頭のお婆さんい 
て 爺さんと同じようにカップの中を じーっと覗いていた あれは夫婦だろうかと勝手に感ぐっていると 
おやじが出て来た ゆうさんは早速宝くじ当籤の話を始めたが日頃 冗談が多いので急には信じてくれない
家内も知ってると言うと信じる気になったらしい 
ゆうさんは換金する前にこのおやじに 当たり券を見せればよかったと 悔んだ
奥の婆さんにもこちらの話が聞こえていただろうに さっきの状態のままで目先も変えようともしていない
買ったくじの保管のしかた等を自慢して 「そいじゃ お勘定」 と紙入れを見て慌てた 1万円札がない 
ついさっき 千円札4〜5枚の紙入れに1万円札を入れて 内ポケットにしまったのを 覚えてるどころか 指
の感触まで残っている
内ポケットの中やズボンのポケットまで探したが出てこない 探偵物じゃないが忽然と姿が消えていたのだ
おやじが又疑いの続きで 挙句には年でボケたといわれた
ゆうさんは悔しかったが結局不明のままで 不思議で なぞで 迷宮入りだ      
名誉回復と 確かに当てたとの実績が ゆうさんを病みつきにさせた ジャンボにかぎらず 都市や地方の
発売ものも買い続けるが 外れっぱなしだ
.
ゲン(験)を担ぐのがこの人の癖だが 担ぎたくなるような事物はない 考えたあげくに 当選した時の状況
を反省して そのように再現してみることにした
買う前に喫茶店へ行く、 おやじと宝くじの会話をする、 売り場で 「当たり番号をください」と言う
ゲンの原因を自作でまかないそれでも 幸運がつくような気がして ジャンボは
もとより 地方や都市の発売ものも以前よりも 高率を信じて買い続けたが一向
に効果は表れない
..
ゆうさんは ゲンの設定に誤りがあるとして前にもまして 慎重にあの日の状況を
掘り返し時には食事を忘れたり 眠れなくなったりと苦労重ねていくつもの要因を
摘出し自分では完全といえる筋書きを作り上げた
.
買う前に喫茶店に寄る、 奥のテーブルに白髯の爺さんがいたら幸運で当選率が高い、
爺さんが いなかったら不運で買わない、 もしも婆さんがいたら 凶運で禍がつくので無駄口も省く
自分で決めたことは実行する人で それ以来 宝くじの購入回数が少なくなった 
喫茶店に行っては奥のテーブル眺め 爺さんが居ると話もそこそこに いそいそ
と スーパーへ宝くじを買いに行く ほかの客にからかわれてもきにしない 
白髪の婆さんがいたら 用事を忘れていたふりをして 店にも長居はしない
...
何回か 爺さんを見ない日があって もうこないのじゃないかと待ちくたびれて
根負けしそうになって また ゲン作りに誤りがあったかと疑いだし焦った 
もう年末ジャンボが発売されているのだ それでも ゆうさんは辛抱強く待った        
 「初孫の誕生日ですよ」 と奥さんに言われてスーパーに行って積み木のおもちゃを買った 運よく割引
がついてえらく儲かった気がしたので喫茶店に寄った そこでは小躍りして喜ぶ現象が待っていた
喫茶店には暇そうな半婆(50歳前後)が四人で ドアに近いテーブルを占拠して誰かの悪口を言い合っ
ている雰囲気だっが ゆうさんが行くと 口ぐちに
 「宝くじは当てたか  早く行かんと売り切れるよ」 と おやじの受け売りを言って 笑い物にした
ゆうさんはそれに反応する前に奥のテーブルを見ると 白髯の爺さんがこちら向きにいて カップの中を 
じーっと見つめているではないかゲンのよい筋書き通りだ 胸がドキドキ ドキがむねむね コーヒーを頼
むのももどかしく店を飛び出して 売り場に付くや慌て気味に 「10枚」 と言って3.000円を出していた 
 「バラですか」  「いいよ」 
ゆうさんには当たる自信があるので バラでも通しでも どちらでもよかったのです 
「10枚買った ヨシッ」 前回の失敗があるので 確認の指差呼称をしてから内ポケットに入れてボタンを
かけて外から抑え   「ポケット ヨシッ」 
当選した時と同じ仏壇の引き出しに人気(ひとけ)のないのを確認して そっとしまい込み何時もより強めに 
リンをたたき ご先祖様とついでに 氏神様も合わせて 丁重な気持ちで当選のお願いをした 
 「お願いヨシッ」
.
その日から 年末の抽籤発表日まで喫茶店には行かなかった 行って喋ると ゲン が落ちるかと思いそれ
よりも白髪頭の婆さんを避けたかったのだ
勝手に決めた自信から実現までの期間を勝手に興奮して長がーく感じた日々を待ち続けて ようやくその日
がきた 10枚のくじをずらーと並べてから おずおずと新聞の記事を探し出し 当選番号を 1等から照合し
たが似つきもしない数字だ 2等もそうだ 3等もそうだ 4等  あった 五万円当籤 呼吸も心臓も一旦    
停止 寒気がして鳥肌がたった 間をおいてもう一度見た 組番号も追い番号も並び順が一致している  
 「当選 ヨシッ」 声が小さい
他の人はこんな場合 「当たった」 とか大声を出して喜びを表現するもんだと思うが この人は黙って 
まるで大金を亡くした人のようにしょげて動かないのだ
ややあって なお確認を2回3回と繰り返していると気分が回復したのか 2時間ほどして喫茶店に来ていた
前の反省もあって おやじに当籤券を見せて 「どうだっ」 と自慢した もっと自慢の仕様があった筈とあ
せったが思いつかなかった 
おやじも当籤を認めて 「やったじゃん」 といったが後は何も言わなかった 何か喜ばせるとかの言葉があ
るんじゃないかとは言えず 口うるさい半婆たちがいないのも 残念な気がした
コーヒーカップを持ち上げて ひょいと奥を見ると まだ爺さんがいたので ゆうさんが大きな声で 
 「こんにちは」 
と挨拶して頭を下げた 爺さんは知らんぷりだが 福の神にお礼のつもりで言ったのだ
ほかの馴染み客が来るかと わざとぐずぐずとしてたが誰も来ない
コーヒーを飲んで ややはずんだ声で 「お金もらってくる」 と椅子から立ち上がりコ-ヒ-代を払った 
..
 このぐずぐずとお金を払ってる間に、奥のテーブルでは 爺さんが帰って 今白髪の婆さんが入ってきた 
のをゆうさんは.気付いてないのだ
09年01月
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